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連載エッセイ [39]
異常気象時代のサバイバル
吉野正敏

 
猛暑と野菜価格
猛暑と野菜

 2015年は近年の夏のように、猛暑にまた襲われた。サバイバルへの影響は深刻であった。 洪水・干ばつなどは日本における気象災害の最たるもので、古くから記録もあり、研究も、対策もされてきた。農作物に関しては、主食であるコメ、すなわち水稲の栽培・収量に関わる研究は最も進んでいた。ところが、近年の日本人の食生活・食品の変化により、野菜の比重が大きくなり、野菜への関わりが強くなってきた。農家も収入の点から野菜栽培が重要性を高めてきた。
 一方、この数年、猛暑がよく発生するようになった。いわゆる“葉もの”野菜は高温に敏感である。成長も、収穫も、輸送も、消費も、温度条件に敏感である。管理が悪いとすぐにうなだれる。3〜4ヶ月先の週単位の長期予想は現在のところまだ不可能である。市場価格に対応できるには、おそらく3〜4日単位の猛暑をもたらす熱波の長期予想が必要であろうが、現在の気象学はそれを可能にする状況にない。2014年の北日本の熱波スケールに関してはこの連続エッセイ[15]で触れたが、野菜について特に考察したものではない。そこで、猛暑と野菜について、今回若干述べたい。

2013・2014・2015年の猛暑

 今年の猛暑をまず概観したいので、2013年・2014年・2015年における真夏日(日最高気温が30℃もしくはそれ以上)、猛暑日(日最高気温が35℃もしくはそれ以上)の月別最大地点数(日本における全観測値点数は928地点)と、その値が発生した日付けを(表1)に示す。

(表1)月別に見た最大の真夏日および猛暑日の地点数とその発生日(気象庁の資料からまとめた)

真夏日 猛暑日
  最大地点数(発生日) 最大地点数(発生日)

2013年    
5月 112 (5月14日) 1 (5月24日)
6月 346 (6月14日) 33 (6月13日)
7月 626 (7月9日) 140 (7月11日)
8月 752 (8月16日) 296 (8月11日)
9月 534 (9月14日) 37 (9月1日)
10月 141 (10月9日) 1 (10月9日)

2014年    
5月 313 (5月31日) 1 (5月24日)
6月 401 (6月1日) 27 (6月1日)
7月 698 (7月6日) 231 (7月26日)
8月 573 (8月1日) 118 (8月5日)
9月 306 (9月6日) 1  (9月7日・10日)
10月 59 (10月3日) 0 (−)

2015年    
5月 48 (5月14日) 0 (−)
6月 168 (6月13日) 0 (−)
7月 718 (7月31日) 157 (7月31日)
8月 822 (8月5日) 223 (8月1日)
9月 (現在進行中)  


 2015年の8月5日、真夏日地点数の822地点はこの3年間で最大であった。観測史上、最高気温を観測した群馬県の館林市は、39.8℃をこの日記録した。しかし、全般的に見ると2013年が大きい値を示し、2015年は5月・6月が他の2年に比較して真夏日の地点数が少なく、猛暑日の地点数は0だった。言い換えれば、7月・8月の真夏日・猛暑日の地点数に表現された酷暑が、野菜の生産・出荷・価格へ及ぼす影響はより明らかになった。

2015年5月〜8月の野菜の値段

 2015年の野菜の価格を(表2)に示す。

(表2)2015年5~8月の東京都区部における野菜の値段*(消費者物価指数**)の推移

野菜名 5月 6月 7月 8月***

だいこん 123 92 109 116
にんじん 107 126 108 121
はくさい 210 177 152 167
キャベツ 136 92 83 98
ほうれんそう 108 100 126 157
ねぎ 121 124 143 111
レタス 89 79 88 108
きゅうり 93 89 93 90
なす 128 110 114 91
トマト 105 97 91 89
ピーマン 111 86 86 90
ばれいしょ 118 128 137 126
さといも 119 174 190 171
たまねぎ 106 117 119 125

* 総務省による“主要な野菜の消費者物価指数**”。少数点以下を4捨5入した。
** 全世帯が購入する商品の価格の平均的変動を指数で表した値。2010年を100とする。
*** 8月のみ中旬における速報値。

 この(表2)から、6月にまず急激な下落をしたものを書き出してみると、だいこん・はくさい・キャベツ・なす・ピーマンなどである。多少の下落をしたものは、ほうれんそう・レタス・きゅうり・トマトで、合計すると14品目中の9品目に及ぶ。すなわちほぼ3分の2の品目が値下がりした。値上がりしたものは、にんじん・ねぎ・ばれいしょ・さといも・たまねぎでいわゆる“葉もの”でない、言い換えれば、土壌中に育つ根菜類である。“葉もの”や、きゅうり・トマトなどは高温で成育が早まり、生産過剰になり、市場での価格が下落する。すなわち、真夏日の影響が市場への早や出しに、まず現われる。その影響が地上部に成育する野菜に強く出ることが明らかである。
 7月になると、一転して6月より価格が上昇するものが出始まる。だいこん・ほうれんそう・ねぎ・レタス・きゅうり・なす・ばれいしょ・さといも・たまねぎで、9品目である。特にほうれんそうの変化は大きい。
 8月になると、7月より価格上昇するのは、だいこん・にんじん・はくさい・キャベツ・ほうれんそう・レタス・ピーマン・たまねぎの8品目であった。
 以上をまとめると、急激な下落、その後の上昇という典型的な変化を示すのは、だいこん・ほうれんそう・レタスであり、その下落が1ヶ月遅れるが、やはり上昇するのは、にんじん・はくさい・キャベツ・ピーマンであった。

産地・市場・消費者

 当然のことながら、高温の程度は北日本・中央日本・関東地方・西日本などで異なる。また、気温上昇の時期のずれもこれらの地方間でみられる。産地がどこであるか、市場がどこかによって影響に微妙な差が生じると思われる。
 だいこんの例で言うと、8月中旬になって北海道の出荷量は増加したが、他の産地は干ばつ気味で生育が遅れ、病害も発生し、平年より出荷量は減少が見込まれた。青森産は病害が1部で見込まれたが、ほぼ平年並み。このような状況であった。ほうれんそうは栃木県・群馬県・茨城県・岩手県の主要産地で成育が遅れ、出荷量は減少したが、市場での価格は平年を上回った。
 作物別に細かく見ないと、一般的な議論ができない。さらに、(表2)は東京都区部の場合だから、同じ大都市でも大阪や名古屋・福岡などそれぞれ状況は微妙な違いがあろう。また、販売業者や消費者の対応にも地域差が実際にはあろう。
 消費者の立場から言うと、(表2)に示した14品目以外の野菜の価格変動が問題である。市場における需要供給の額としては少ないかも知れないが、例えば(順不同だが)、たけのこ、みょうが、たらの芽、ふき、いんげんまめ、そらまめ、きぬさやえんどう、えだまめ、ごぼう、うど、にら、チンゲンサイ、セロリ、小松菜、三つ葉、など、小売価格の上下が家庭で話題にのぼる野菜がたくさんある。日本人が好む“旬(しゅん)”を感じる野菜が多い。昨今はハウス栽培だから、必ずしも自然季節の変化を表してはいないかも知れないが、話題の種にはなっている。これらの野菜の値段を消費者が見て、“高い”と思えば買わないだけかも知れないが、猛暑が消費者の心理に及ぼす影響は見逃せない。また、代用できない野菜もあり、実際の家計に影響する。日本人にとって、「刺身のつま」に、例え量を多少減らしても「だいこん」は、1年中なくてはならない。高いからと言って、「ごぼう」で代用するわけにはいかない。
 ここでさらに問題なのは、輸入野菜である。日本で猛暑が発生しても、輸入先の国々の生産地では発生していないことが多い。生鮮野菜の空輸による輸入は価格的に難しいかも知れないが、やりようによっては不可能ではなかろう。

北日本の優位性

 だいこん・にんじん・たまねぎなど、北海道産の野菜生産の優位性は出荷時期が少し遅れたり、生産高が多少下がったり、病害が出たりしても価格は順調で、本州のより高温の地域より猛暑の影響は相対的に小さいとみられよう。長野県・群馬県などは気温からは北海道に類似するが、降雹の影響があり、高温条件下の山岳気象の影響が加わる。中部日本より北日本の方が猛暑の影響を回避するため優位であると結論できよう。


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