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連載エッセイ [08]
異常気象時代のサバイバル
吉野正敏

 
局地気候学の知識を生かす
地球温暖化と局地気候

 これまで何回か、関東地方で冬に吹く冷たい、そして乾いた強風として有名な局地風、“空っ風”が地球温暖化によってどう変化するか、書いてきた。スロベニアのアイドフシチナやクロアチア海岸の冬の局地風“ボラ”の最近の変化についても、触れてきた。世界的に見て、これらの局地気候現象がどのように変化してきているかは非常に重要なことなのである。
 今回は日本のリンゴ栽培の南限の問題と、筑波山の斜面温暖帯の例を取り上げて、局地気候学の立場から、少し述べておきたい。

最近のリンゴ栽培の問題

 去る3月25日の夕方テレビを見ていたら、「長野県のあるリンゴ農家の報告」として、“近年、リンゴが赤くなりにくくなってきた。秋の低温の到来が遅くなったり、低温が無かったりするためだろうと思う”ということであった。まことにそのとおりであろうと、私も同感である。ところが、それに続いて、“現在あるリンゴ園を周辺の山地斜面の200mくらい高いところに移そうと思う”という現地のリンゴ農家の話である。私はこれを聞いてアッと叫んだ。さらにテレビの解説がふるっていた。“気温は高度100mに付き約1℃下がります。従って、200 m高い所に移れば約2℃下がるので、秋の到来の遅れに対する温暖化の影響から逃れることができます”というのだ。
 このリンゴ農家もテレビの解説を書いた記者も、失礼ながら、局地気候学の知識を全く欠いているのである。確かに気温は高度100 mに付き約1℃低下し、これを気温逓減率という。しかし、これは自由大気中のことで、マクロスケールの話である。山地でも富士山やアルプスなどの山頂と山麓の海抜高度差ではこの逓減率はほぼ成り立つ。しかし、山麓の海抜数百mより低いところでは盆地や谷の地形、山地斜面の傾斜・形状などによって程度は異なるが、この逓減率は成り立たない。特に平野に続く山地斜面や盆地の底を取り巻く周辺斜面上では斜面下部から高度差200〜400 mの位置の斜面上に斜面温暖帯が形成され、それより低い盆地底より暖かい。これは、局地気候学では国の内外を問わず、常識である。従って、この農家の場合、もし、200 m高いところに移れば、現在よりもっと暖かいところに移る可能性が大きく、リンゴ栽培の南限に対するリスクは大きくなるであろう。サバイバルには悪条件であることは間違いない。

山地斜面の温暖帯

 ここで斜面の温暖帯とは実際にはどうなっているのか、紹介しておきたい。現在、最もよく研究されている筑波山の例を取り上げたい。
 (図1)は1月の日最低気温の月平均値の高度分布である。1953年10月〜1956年3月までの間、当時の農林省が水戸測候所などと協力し詳しい観測網を張って調べた結果である。図の左側が関東平野(海抜約40m)、右側が柿岡盆地である。図中、桃色の部分が−1℃で、斜面上最も暖かいことがわかる。

(図1)筑波山における1月の月平均最低気温の高度分布。(吉野、1986)

 この温暖帯より高度の低い斜面上は高度の低い所ほど低温、−4℃である。いわゆる気温の逆転がみられるのは、関東平野部における晴夜の放射冷却により地面付近の気温が低下するためである。柿岡盆地の方も温暖帯から山頂部に向かっては気温逓減率にしたがって低温になってゆき、山頂部は−4℃である。斜面の温暖帯より下は冷気が溜まっており、 いわゆる冷気湖を形成している。

斜面温暖帯と人びと

 土地利用や人びとの生活に斜面温暖帯はどのような影響が見られるか。上記のように、リンゴ栽培地域の南限近くでは秋の色付きが悪くなるから、マイナスの条件である。
 筑波山の山地斜面の温暖帯はおそらく古代から人びとはその暖かさに気が付いていたのであろう。筑波山神社とその門前町はちょうどその温暖帯の位置にある。その高度の周辺には、小さいが味は良いフクレミカンが育つ。今日では大きな柑橘類も栽培されている。江戸時代末期から明治時代にかけた小氷期と呼ばれる時代にもこの斜面温暖帯の柑橘類は生き抜いて来た。関東地方はミカン栽培の日本における北限だが、斜面の温暖帯の条件はサバイバルを可能にした。

(写真1)筑波山の斜面温暖帯を利用したミカン園。(吉野、2013年1月撮影)

(写真2)筑波山神社前のみやげもの店に並ぶミカン類。(吉野、2013年1月撮影)

 (写真1)は筑波山斜面の温暖帯において、その好条件を生かし、新しいミカン園が造られている。(写真2)は神社前のみやげもの店の店先に並ぶミカン類である。観光産業に貢献しているさまを示す。いずれも1月の真冬に撮影した。
 筑波山は東京からの交通の便利がよく、山頂の高度は1,000m以下だが、好天の場合は関東平野の眺望がよい。これが、日本百名山の一つに入る理由である。それに加えて冬の斜面温暖帯の風景・桜や梅や紅葉などの季節の早遅・神社や門前町の立地など、斜面温暖帯が人びとの生活を支え、サバイバルにプラスの貢献をしている。

[文献] 吉野正敏 1986;小気候。地人書館。


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