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連載エッセイ [02]
異常気象時代のサバイバル
吉野正敏

 
厳しい冬のサバイバル
人間はどう生きてきたか

 テレビ・新聞などは開幕近くなってきたソチのオリンピックに関する話題でいっぱいだ。冬のスポーツだから、雪と氷に何らかの形で関わるのは当然である。。。。とすると、暖かい冬と厳しい冬では1秒の何分の1と言うような時間、あるいは1cmの何分の1と言うような距離を争う競技では、影響がずいぶん違うのではないか。特に屋外競技では選手の自然条件への対応も違わなくては勝てないであろう。風の吹き方も微妙に異なるであろう。もちろん、それぞれのコーチや選手の方々は、そのようなことは心得ておられるだろうが、実際にそれをつかみ、対処するには、かなり難しいことが多いだろうと思う。
 サバイバルの場合、このような問題点が長期間に渡り、各方面で極端化するのだから、さらに一層難しくなる。オリンピック精神を私はそれほど勉強したわけではないが、もしかすると、スポーツは人間がサバイバルするための基本的な活動なのかも知れない。。。。と思うように最近なった。ギリシャ時代以前から、人類はスポーツをやってきた。このことが、人類を生き延びさせ、繁栄させた原因だというのは極論であろうか。

東日本大震災の教訓

 東日本大震災に関しては、すでに前回の連続エッセイで何度も取り上げた。地震・津波は気候変化・天気変化とは全く関係がないので、気候学・生気象学の立場からは取り扱うことを従来避けてきた。しかし、地震・津波の被害を受ける人間は温暖化する地球環境の下に生活しているのだから、やはりいろいろの勉強をしておくべきだと言う理由であった。
 その後、この新しい連続エッセイが走り出し、種々考察しているうちに、『サバイバルの観点からは、東日本大震災のような人間生存の極限状態は、異常気象によるサバイバルの極限状態を推定する上で、大きな参考になる。。。。参考にすべきだ』と気が付いた。
 そこで今回は地震・津波による死者数・犠牲者率などについて書いておきたい。先ず、被害が大きかった東北地方・関東地方の県別人的被害を(表1)に示す。

(表1)東日本大震災による人的被害

県名 死者(人) 行方不明(人) 負傷者(人)

青森県 3 1 111
岩手県 5,086 1,145 212
宮城県 10,449 1,299 4,145
福島県 3,057 226 182
茨城県 65 1 712
千葉県 22 2 256

日本全国合計 18,703 2,674 6,220

(データは2013年9月1日現在)

 この表からわかることは東北地方3県に人的被害が集中したことである。その中でも宮城県の死者数がきわだって大きく、2位の岩手県の約2倍の高い値を示している。また、負傷者の数も宮城県がきわだって大きい。行方不明者数を県別にみると、岩手県では大きい。この理由は宮城県では人口密度が大きい地域が広いため、岩手県では地形の影響による津波形態の複雑性が大きいためと考えられる。詳しくは今後の研究を待ちたい。

被災者率(犠牲者率)

 静岡大学の防災総合センターの牛山素行教授らは犠牲者率を次のように定義して東日本大震災の人的被害を研究している。すなわち、

犠牲者率(%)=[(死者数+行方不明者数)/(浸水域人口)]


つまり、当然のことながら犠牲者は人口の多い地域ほど多数だから、被害の強さなどを比較するためには津波で浸水した地域の人口に対する割合でみる必要がある。(表2)は岩手県・宮城県・福島県において、それぞれ都市化・水産業・港湾施設・交通などの条件からみて典型的な市・町・村別の犠牲者率・津波の最高高度・死者数を示す。

(表2)市・町・村別の犠牲者率*・津波の最高高度**・死者数***

市町村名 犠牲者率(%) 津波の最高高度(m) 死者数(人)

岩手県
 宮古市 2.91 9.3 465
 釜石市 8.02 9.3 986
 大船渡市 2.24 16.7 414
 陸前高田市 11.13 15.8 1,597
 大鎚町 10.97 853
 山田町 6.73 671

宮城県
 女川町 11.63 14.8 607
 石巻市 3.36 7.7 3,510
 東松島市 5.8 1,115
 気仙沼市 3.40 1,189
 仙台市 2.44 7.2 907
 南三陸町 6.09 618

福島県
 相馬市 4.39 8.9 458
 南相馬市 4.83 12.2 958
 富岡町 5.21 21.1 194
 楢葉町 1.43 12.4 90

* 牛山素行・横幕早季(2012):静岡大学防災総合センター牛山研究室(速報)による。
** http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images/4363b.gif
*** 消防庁による。

 この(表2)によると次のことがわかる。(1)犠牲者率が10%以上の市町村は大船渡市の例外はあるが岩手県・宮城県に出た。その場所の津波の高さは15〜17mであった。(2)死者数の絶対値は必ずしもこれらの限界値とは関係がなく、津波の高さは約5m以上で大きくなる。犠牲者率は3〜8%、もちろん津波の高さが大となるほど大となる。(3)福島県では岩手県・宮城県に比較して犠牲者率は小、死者数は少なかった。津波の高さ約20mに達しても、犠牲者率は約5%であった。震源から離れること、リアス式海岸でないこと、沿岸地域の人口密度などが理由と思われる。
 (表1)と(表2)との示す結果から、異常気象時代のサバイバル考察の際、参考にし留意すべきことは以下のとおりである。(1)死者・行方不明者の絶対数ばかりでなく、被害地域の総人口で割った被害者率(犠牲者率)も考察の対象にすべきである。この方が地域の環境とよく対応する場合がある。(2)現象の局地性を反映させて分析すること。被害の内容によって、県別で十分か、市町村別でないとわからないか、違ってくる。異常気象の場合、数千kmの地域スケールでないとわからない現象もあろう。

御神渡り現象の例から

 長野県の諏訪湖では御神渡り(おみわたり)という神事が諏訪神社によって行われている。冬になって諏訪湖が結氷し、春に近づくと日中の気温が上昇し氷の表面が太陽から受け取る熱量も多くなって来ると、日中氷の表面は膨張する。しかし、夜間は放射冷却により低温になり収縮する。こうして膨張と収縮を繰り返すうちに湖面の氷に割れ目を生じ、この割れ目に沿って氷がせり上がる。遠望すると一本の道のようにも見える。諏訪神社の神様が夜お通いになった跡とも信じられ、その方角、せり上がりの状態でその年の豊凶を占った。暖冬で結氷しない年にはこの行事そのものが行われないし、行われても、早い年、遅い年がある。したがって御神渡りの日付けの記録は気候変化の良い資料である。
 ところで、この御神渡り現象やその記録の分析結果は日本の気候学の教科書にはたいてい書いてあり、よく知られている。しかし、諏訪湖以外どこにあるかということは書いてない。欧米や中国の気候学の教科書にももちろん書いてない。
 30年以上も前のことだが、私が初めて北京を訪問したとき、北京の昆明湖で御神渡り現象をみて驚いた。北京の気候学者や土地の人々にとっては驚くほどの現象ではないのであろう。(写真1)はその時に撮影した風景である。

(写真1)北京の昆明湖の御神渡り現象。(1980年1月20日、吉野撮影)

 遠くにスケートを楽しんでいる人がいて、湖面の広さ、日中の好天がわる。氷の堤は高くなく、せり上がった氷の量は多くないが、湖面を延々と延びる形態は典型的な御神渡り現象である。
 つまり、湖面の広さ(結氷量に関係する)、日中と夜間の温度差(膨張伸縮の量に関係する)、東アジアの天気(高気圧に覆われる頻度に関係する)など条件を満たせば、どこにでもあって不思議はない。逆に言えば、もし、北極圏や北東部シベリアの湖に生じるようになれば地球温暖化の影響と考えざるをえない。サバイバルにとって深刻な課題である。


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