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連載エッセイ [49]
暮らしの中のバイオクリマ
吉野正敏

 
北西ヨーロッパの異常「温帯低気圧」:セント・ジュード
 
北海沿岸の低気圧

 2013年10月27−29日、北西ヨーロッパの1部、すなわち、イギリス海峡から北海・バルト海を囲む国々を、秋のこの季節としてはめずらしく異常に発達した温帯低気圧が襲った。
 冬には、いわゆるアイスランド低気圧がイギリス中部を西から東へ横断して北海に入り、さらにスカンディナビア半島を横切り、バルト海に入る。この経路に近い地域、北海沿岸各地では大きな被害を受けることがある。1962年の場合については、別に記述した(吉野,2010,地球温暖化時代の異常気象。成山堂)。
 この冬のあらしで海が荒れ、船舶の難破は昔から絶えなかった。北海のドイツ人の船乗りは、“Nord-See, Mord-See”(韻を踏んで、“ノルトゼー,モルトゼー” すなわち、“北Nord海Seeは、人殺しMordの海See” の意味)と呼んだ。
 そのような本来は冬の低気圧が、10月末にやってきたのだから、やはり異常気象と言わざるをえない。

温帯低気圧「セント・ジュード」

 今回の低気圧は正確に言うと、これまでの多くの低気圧が通る経路より少し南にずれていた。また、すでに触れたように冬に最も発達するのが平常であるが、今回は秋の最中であった。では、どうしてこのようなことが起こったか。その生い立ちは次のようである。
 10月26日、西部大西洋、グリーンランドの南にあったアイスランド低気圧の2次低気圧として発生した。この低気圧は上空のジェットストリームに流され東進している間に、その南にあった別の熱帯外低気圧からエネルギーをもらい、発達して北西ヨーロッパに向かった。
 イギリスに達するころに強風軸は二つに分かれ、南の軸はイギリス南部沿岸に沿い、他の一つは東アングリア・イングランド南東部を経て北海に入る位置にあった。後者はあたかも竜巻の周辺で起きる強い下降気流(ダウンバースト)のような下降気流をともない、強風をもたらした。強い雨も降った。これらが死者まで出す大きな災害の原因であった。1987年以来というから、まさに30年ぶりである。
 熱帯低気圧には番号や名前が付けられる。日本では台風に番号を、アメリカではハリケーンに女性の名を、ベンガル湾でも名称を付ける。温帯低気圧には付けない。ところが熱帯低気圧が来ないヨーロッパでは特別に強い温帯低気圧に命名する。各国の気象台が付けるので、いろいろの名前が付き、大変である。今回は、イギリス気象局は“セント・ジュード(Sent Jude)”と呼び、スウェーデンでは“シモーン(Simone)”、 ドイツは“クリスチャン(Christian)”と呼んだ。イギリスにあるヨーロッパ風・低気圧センターは“カルメン(Carmen)”と呼んだ。現在、国際的にツィッターやメディアではセント・ジュードが広く使われているようである。
 10月28日はキリストの12使徒、守護聖人セント・ジュードの祭日なので、この日にやってくる低気圧をこう呼んだ。しかし、イギリスの気象関係者の誰が命名したかはわかっていない。

「セント・ジュード」による被害

 被害は北西ヨーロッパ・北ヨーロッパ諸国の全域に拡がった。(表1)にはそれぞれの国の風の状態、死者数、特徴ある被害をまとめた。

(表1)温帯低気圧「セント・ジュード」による国別の死者数、風の強さ、被害など

影響を受けた
国の名
風の状態 死者数
(人)
被害など

イギリス ロンドンで瞬間最大風速53m/s 5 ガンフィールドサンズの風力発電施設破損、南部の港湾閉鎖・施設破損など。イングランドのケント原子力発電所の原子炉2基自動運転停止。ロンドンでは樹木が倒れ家屋を潰しガス爆発、2名死亡。
フランス クッサンで瞬間最大風速37m/s 1 北部沿岸地域で被害大。75,000世帯停電。イギリスとのフェリー欠航。
ベルギー 0 被害は比較的少なかった。
オランダ 沿岸地域で瞬間最大風速36〜41m/s 2 1990年来の被害。沿岸の運河交通・ロッテルダム港湾施設・風車など。救急要請全国で1万件以上、アムステルダムだけで366件。運河に倒木・樹木の枝が堆積し運航不能。市街の路上にも散乱。
ドイツ 北海沿岸で瞬間最大風速46m/s 8 ニーダーザクセンの風車。アウトバーンA71閉鎖。
デンマーク 南部で瞬間最大風速54m/s 2 風力発電施設破損。数ヶ所の橋が閉鎖。
スウェーデン 0 上記の国々に比較して少。
ノルウェー 0 同上
ラトビア 0 同上
エストニア 0 同上
フィンランド 0 同上
ロシア 0 同上

(2013年11月2日現在、データは種々のソースによる速報値)

 この被害をまとめると、死者数は、1987年(グレイト・ストーム、Great Storm)の20人以上や、1990年(バ−ンズデイ、Burns Day、スコットランドの詩人ロバート・バーンズの誕生日に襲来した)の90人以上に比較して、今回は少なかった。風速はこれらの場合より強かったにもかかわらず死者数が少なかったのは、予報が2〜3日前から適確に出され、強風に対応する準備期間があったためであろう。それでも倒木・折枝による道路・運河・鉄道・路面電車などの交通障害、家屋倒壊のために生じたガス爆発の2次災害の被害があった。風力発電施設、特に風車の羽根、原子力発電施設などの被害が目立った。強雨による被害は少なかった。以上が今回の特徴であろう。

個人の被害対策

 個人はどのような対応・準備を心がけねばならないか。イギリスの保険会社AXAの資料を参考にして以下に日本の現状に役立つようにまとめた。ただし、項目は順不同である。
(1) 家庭に常備する緊急箱には防水服・腐敗しにくい食料・ペットボトルの水・医療品を入れておく。
(2) 地域的な警報を聴くためにチャンネルを合わせ、充電した携帯ラジオを準備しておく。
(3) 常備薬だけでなく、飲み残しの薬も全部持ち出すようにまとめる。
(4) 携帯電話を十分に充電しておく。
(5) 必要とする連絡先の電話番号が入っているかチェックする。家族・知人・友人の他、民生委員・市町村役場・区役所などの電話番号も入れておく。
(6) 各家庭の重要書類(保険証書・銀行通帳・登記簿・権利証・卒業証書など)を防水袋(箱)に入れ、特に1階屋では、家の中のできるだけ高いところに置く。
(7) ガス栓・電源・石油ストーブの元栓を閉める作業を、完全に暗い中でもできるようチェック(練習)しておく。
(8) 水が家屋内に入らぬように砂袋・土嚢・ビニールシートを用意する。
(9) 家屋内・屋根・屋上などで修繕しておくべきだったところがなかったか、再点検する。
(10) 高いビルでは植木鉢など強風で飛散・落下する危険のあるものをベランダ・屋上に置かない。
 これだけのことをするのは容易ではないが、災害国日本に住む者は心がけなければならない。


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