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連載エッセイ [40]
暮らしの中のバイオクリマ
吉野正敏

 
「焼畑」は文化か農業か
 
東南アジアの森林火災と煙霧

 1970年代から1980年代、地球温暖化の議論が世界中でやかましくなってきた。焼畑という人間活動は大気中に拡散される2酸化炭素の量を増大させる。あるいは焼畑によって大気中に形成される煙霧層は温暖化の過程に影響する。これを見逃してはいけないという考えである。特に、東南アジアにおける焼畑は大きな影響を及ぼすと指摘した研究者がいた。
 東南アジアの焼畑からの煙がどのように際立っているか、筆者が初めて飛行機から見たのは、約50年前、1961年7月南回りでヨーロッパに行く時、インドシナ半島をハノイあたりで横切った場合であった。文献から、乾季の焼畑は知ってはいたが、対流圏の中層まで広く覆う煙霧層、それを突き破って上昇気流があちこちで対流圏上部にまで達する凄さには驚いた。そして、その下には山岳農民の暮らしがあることにも思いをはせた。それ以来、筆者は東南アジアの焼畑に関心を持つようになった。
 その後、20−30年経ってジャワ島やタイの山地、雲南の山地などで現地の研究者と共同研究するようになり、焼畑の現状を知った。その結果、焼畑は熱帯山地の農業の一形態であるばかりでなく、農民の生活に結びついた文化だと思うようになった。火災対策で取り締まるべき対象でなく、大企業に結びつく、あるいは結びつけるべき行動の対象でもないと思う。そこに自然科学だけで捉え・解決できない難しさがある。
 日本のメディアやインターネットでは、東南アジアの森林火災を「野焼」という語で捉えることが最近多いが、これは間違いである。「野焼」とは草をよく成長させるために原野(草地)を、春に焼くことである。その典型は阿蘇山斜面や、箱根山斜面の「野焼」である。その跡に、他の作物を栽培することはない。「焼畑」は森林を伐採して樹木を焼き、その跡地は短期間作物を栽培する耕地にする。その後、この部分は森林が回復する。世界的には湿潤な低緯度地方やサバナ地方でよく行われている。焼畑を英語ではslash and burned fields と呼び、今回紹介する東南アジアの森林火災・煙霧はこの影響だと欧米や東南アジアのメディアは言葉を正しく使っている。
 最近は、焼畑の跡はパームオイルを採るヤシのプランテーションになったり、ゴム園やチャ畑のプランテーションになったり、企業化された農業形態に結びつく場合もある。しかし、焼くことがそこに住む農民の文化であることに変わりはない。

1997年の森林火災・煙霧災害

 1997年7月から11月まで続いたインドネシアの森林火災・焼畑による大規模な火災は、1997年9−10月がピークで、スマトラ島とカリマンタン島で合計45,000km2が焼けた。1998年の前半にはカリマン島だけで、ほぼ同じ面積が焼けた。これらの地域の火災から生産され放出された大気汚染物質はタイまでを含めて東南アジア全域で300万km2に拡がった。その状態は(図1)に示すとおりである。
(図1)1887年9月の東南アジアにおける森林火災による煙霧・悪視程地域
(Bala, Nat. Univ. Singapore による)
 学校閉鎖・工場閉鎖・企業の休業などに追い込まれ、住民は可能なかぎり部屋の中にとどまり、外出する時はマスク着用、などの勧告が出た。ボルネオ・マレーシアのクーチンでは最悪の10日間のスモッグ(煙霧)の状況は、たばこを毎日20−40本吸ったのと同じくらいと表現された。
 1997年9月のスマトラ島・カリマンタン島の月平均視程は1勸焚次日最悪視程はしばしば100m以下であった。クーチン市内における大気汚染質はバックグラウンドの平均の5〜20倍であった。視程は15劼ら0.5劼妨詐した。シンガポールとマレーシアでは大気汚染質は2〜5倍に増加した。シンガポールは12日、クアラルンプールでは40日以上“不健康な状態”であった。
 バイオクリマでは、(1)呼吸器関係、心臓への影響、(2)高齢者や幼児への特別な処置、留意事項の実施、(3)激しい急激な影響と慢性的な影響、(4)煙霧の相乗作用的な影響、(5)大気汚染質のバックグラウンドなどが問題である。しかし、1997年の段階ではほとんどたよりになる知見は無かった。
 経済への影響の詳細はやはり不明だが、おおよその推定ではインドネシア・マレーシア・シンガポールをあわせて、4,500億円といわれる。この値は陸上・海上・航空運輸関係、旅行業などが主で、その他の産業・教育・医学的対応などは入っていない。
 この値はGDPの比較的小さい地域にとっては大きな負担になる災害であることは間違いない。焼畑に起因する森林火災が原因としても、止めさせるわけにはゆかない。止めさせてはならない。特に広い火元を作り出すインドネシアは、国としては文化を守り、かつ農業を発展させ、GDPも上げねばならないという難しい舵取りを強いられる。

2013年の森林火災・煙霧災害

 上記のような煙霧災害が1997−1978年に起こって、十数年しか経っていない2013年、また同じ規模の災害が起こった。その経緯を(表1)にまとめた。

(表1)東南アジアにおける2013年6月の煙霧災害の日次的経過

日付 地域(国) 事項

19日 シンガポール 1997年以来の最悪の煙害(極めて不健康段階)発生。
21日 シンガポール 大気汚染指数400(病人と高齢者の生命にかかわる段階)を超える。
22−23日 インドネシア 政府は人口降雨で消火活動。
23日 シンガポール 大気汚染の状態は改善に向かう。
23日 マレーシア 被害深刻になる。ジョホール州の1部で緊急事態宣言。外出自粛。企業活動休止。
24日 マレーシア クアラルンプールの小・中学校休校。視程最悪。都市市民の生活活動低下。
24日 インドネシア 消火活動により19日に148ヵ所あった火元は24日には92ヵ所になったと政府が発表。
26日 インドネシアとマレーシア 両国の環境担当相会談。対策を協議。
26日 インドネシア 消火活動を政府は続行。
26日 シンガポール 『煙害が3ヵ月連続すれば約300億円の被害となる』と発表。


 (表1)から、6月19日から26日にかけて煙霧による災害はひどかった。シンガポールがやや早かった。1997年の場合と比較して、国際間の問題に発展したのが特徴である。
(図2)2013年6月25日の東南アジアにおける煙霧の分布。
濃い赤は最悪のところ、赤はひどいところ、点は火元。
(http://globalvoicesonline.org/2013/06/26/southeast-asia-the-great-haze-of-2013/ より)
 (図2)は2013年6月25日の煙霧の分布地域を示す。火元の多くはスマトラ島の中部と南部で、煙霧のひどいところはシンガポールの西方にある。そしてひどい煙霧地域はマレーシアから南シナ海の南西部を覆っている。風の矢印から推定される流線との関係をみると、弱い夏の(北半球の)季節風循環の状態になっていて、その影響下にあったことがわかる。
 バイオクリマへの影響や経済への影響は1997年と同じで、対策が進んでいないことが最大の問題である。しかも、(表1)で示したように国際問題に発展したのが新しい課題である。ヨーロッパでは越境大気汚染がすでに20世紀後半に国際問題となったが、森林火災に起因する煙霧被害が東南アジアで国際問題として起こることになった。この点を強く指摘しておきたい。


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