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連載エッセイ [27]
暮らしの中のバイオクリマ
吉野正敏

 
けあらし
 
現象

 『けあらし』とは、夜間から早朝にかけて、山間部で冷えた空気が暖かい海面に流れ出てきて、海岸付近の海面上に湯気のように発生した霧である。一般には、気温と表面水温との差が6℃以上になると、空気中の水蒸気は凝結して霧になるといわれている。蒸気霧の一種である。もちろん、空気中に含まれている水蒸気の量に関係し、風速にも関係する。水面の状況、例えばどのくらいの波が立っているか、あるいは、真冬か否か(気温・水温の値)などによって、熱のやり取りが異なるので、6℃というのはおおよその目安である。温度差が大きく、流れ出る冷気が強く、時間が長いほど霧の層は厚くなり上限は高くなる。
 『けあらし』の『け』とは『気』のことで、例えば『気配』を『けはい』と読むのと同じであろう。『けあらし』の場合、水蒸気の『気』と考えられる。『あらし』とは、『嵐』いわゆる台風や強い低気圧に伴う強風、あるいは前線通過にともなう突風のような『あらあらしい風』のことではなく、山間部から谷間を吹きくだり、谷の口から海上に向かって吹き出す山風である。夜間から早朝にかけて、平野または海岸部に発達する局地風の呼び名である。四国の愛媛県の『肱川あらし』は大洲盆地に発生した霧を伴う冷気が肱川の谷間を流下し、暖かい瀬戸内海に注ぐ河口付近で発達する。富山県の砺波平野の『あらし』も有名で、夜半から、午前にかけて、庄川が平野部に出たところで強くなる。詳しくは筆者の『小気候』(地人書館)を参照していただければ嬉しい。

霧の分類と『けあらし』

 霧を発生する場所から分類して海霧・盆地霧・山霧・川霧などとも捉える。今、それぞれを説明する紙面の余裕は無いので省略する。『けあらし』は海上に発生するので海霧に分類されるが、次の点に留意しなければならない。
 一般的に気象学・気候学で言う海霧は初夏から夏にかけて、暖かい気流が、かなり広い冷たい海洋上に発生する霧を指す。北太平洋・北大西洋などで特に発達する。日本では北海道・東北地方・関東地方太平洋側の海岸・沖合の海洋上で、この海霧が発達する。しかし、これらの条件は『けあらし』の条件とはすべて逆である。すなわち、『けあらし』は寒候季・冷気流・暖海面であり、しかも局地的である。

語源

 “『けあらし』は北海道の方言だ”と言う意見がある。方言の定義にもよると思うが、方言学には全くの素人であるがシンパの筆者としては、なにか違和感がある。というのは、方言というからには標準となる言葉があるような印象を受ける。しかし、『けあらし』の標準語はなく、蒸気霧というのは科学的・気象学的な分類による表現に過ぎない。北海道教育大学釧路分校の教授でもあった深石一夫によると『けあらし』は海霧の一種で、現象としては上記のような成因による霧とし、北海道東部でこう呼ばれるという(吉野他編集、1985、気候学・気象学辞典、二宮書店)。北ヨーロッパでは海煙(うみけむり、sea smoke)と呼ばれるという。
 上記のような成因だから日本のどこでもこの条件が整うわけではない。本州の日本海側、四国の瀬戸内海側、関東以北の太平洋沿岸などで条件が整うが、特に北日本でこのような現象は発生する可能性が高い。これらの地域から北海道に渡った人たちが持ち込んだ、すなわち明治以降に北海道で使われ始めたと思うが、私の想像の域を出ない。松前藩の資料や北海道開拓使の資料などで調べれば手がかりは得られよう。仮に現在、本州に『けあらし』の呼び名が残っていないとしても、名称・呼び名・地方名の、移動・伝搬の観点から興味がある。

留萌の『けあらし』

 最近、インターネットで北海道西海岸の留萌で撮影された『けあらし』の美しい写真を見ることができた。そこで、留萌には気象観測値があるので少し調べてみた。(表1)はその結果である。

(表1)留萌における典型的な『けあらし』日の気温(℃)・湿度(%)・日照時間(時間)(デ―タは気象庁の資料による)

日平均
気温
同左
平年差
日最高
気温
同左
平年差
日最低
気温
同左
平年差
日平均
湿度
日照時間

2009 12 4 -4.6 +0.5 -1.0 +3.3 -9.5 -2.4 74 7.5
2010 1 13 -7.0 -4.3 -1.9 -1.2 -11.8 -7.7 84 1.7
2010 1 17 -7.7 -4.6 -2.4 -1.5 -13.9 -8.2 79 4.6
2010 2 3 -9.8 -4.9 -7.4 -1.6 -11.9 -8.6 69 -
2010 3 2 -5.1 -2.6 -0.6 +0.7 -11.7 -6.3 69 9.9
2011 1 5 -6.6 -3.6 -1.2 -0.5 -10.7 -6.9 - 1.0
2011 1 27 -8.2 -5.1 -3.1 -1.9 -12.7 -8.1 73 9.5
2011 1 28 -8.1 -5.1 -3.1 -1.9 -10.5 -8.7 68 6.4
2012 1 8 -5.9 -3.9 -0.6 -0.3 -11.2 -7.3 78 3.3
2012 12 24 -9.7 -2.5 -5.2 +0.4 -12.1 -5.4 79 9.8
2012 12 25 -8.8 -2.6 -3.1 +0.4 -13.1 -5.6 79 3.5
2012 12 28 -6.1 -2.8 -3.5 +0.2 -10.8 -5.7 70 0.2

平均     -7.3 -3.5 -2.8 -0.3 -11.8 -6.7 75 5.0

 この(表1)からいろいろ興味ある事実がわかる。箇条書きにすると、以下のとおりである。
(1) 日平均気温は−5〜−10℃の日である。このような日の日平均気温の平年差は0〜−5℃である。
(2) 日最低気温は−9〜−14℃である。このような典型的な『けあらし』日の日最低気温は平年より2〜9℃低い。つまり、平年よりかなり冷え込む日である。
(3) 日平均湿度は大よそ75%で、冬の季節としては小さい。乾燥気味の天気である。
(4) 日照時間は平均して5時間であるが、場合による偏りが大きい。しかし、冬の留萌は日照時間0の日も珍しくないのだから、(表1)にあるような9.8〜9.9時間というのは、むしろ、まれな好天日と言った方が適当かも知れない。
(5) (表1)には載せなかったが、風向は東南東のことが多い。この風向は留萌山地から吹き出す冷気流の方向である。統計的な最大風速は、冬の季節風による場合が卓越しているのだから、風向は北西〜西北西になっているが、『けあらし』とは関係ない。

 以上からまとめると、気圧配置は冬型(西高東低型)が、低気圧は東に去り、次第に移動性高気圧が西から出てきて北日本を覆うような日である。好天な夜間、地面(積雪表面)は放射冷却で冷え、その上の気層も冷却されて斜面を流下し谷間から海面に流れ出る。海面は温度が高いので、あたかも風呂場の湯気のように、蒸気霧が発生する。これが留萌の典型的な『けあらし』の気象状況である。

『けあらし』のバイオクリマ

 現象が発生していればその日の観光の対象になることは間違いない。現場から数十kmの範囲内すなわち自動車で1〜2時間で行けるならば、観光資源の一つである。しかし、上記のような気圧配置になり、気象状態になるのは非常に確率が低く、また日を特定することは3日間位の前までで1週間前ではおぼつかないのが現状であろう。天気保険の対象にはならないであろう。青森県のある市では猛吹雪を観光資源として売り物にしようとしたが、予約団体客などの旅行計画に組み込むことが難しく、結局は不成功に終った。『けあらし』はもっと難しいであろう。
 教育、特に中学・高校程度の理科(地学)の教育のテーマとしては、非常に役立つ。自分たちが住む地域に特有の自然現象は、それ自体が興味を高める。また、局地的な気象現象の地方名・呼び名は、民俗学や国語学・方言学の立場からの解釈もあり、各自の故郷に対する認識を高める材料として価値が高いと思う。
 また、直接『けあらし』が関わるわけではないが、『けあらし』が発生するような日は寒くても高気圧に覆われた晴ればれとした天気の日である。もし、“明日は『けあらし』が見られるでしょう”と、テレビで予想すれば、その地域に住む人びとは、それだけで気分が晴れてくるのではなかろうか。


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