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連載エッセイ [12]
暮らしの中のバイオクリマ
吉野正敏

 
竜巻による人的被害
 
竜巻バイオクリマ再考

 すでに連続エッセイでは何回か竜巻とバイオクリマについて触れた。竜巻による負傷者・死者の数は、いわば、医学の外科的な原因に左右されるので、内科的な原因による問題をこれまで扱ってきたバイオクリマでは、研究が欠けていたことも指摘した。
 竜巻を主として風工学の面から研究してきた「日本風工学会」は、その機関誌に竜巻特別号を最近組んだ「日本風工学会誌、JWE、37(2)、2012年4月」。もちろん、2012年5月の大きな竜巻が発生する前に企画され、執筆された論文からなる特集号ではあるが、まことに、時宜に適した出版物と言わざるを得ない。これは、大きな竜巻が頻々と発生する日本ならではの事であって、このような事態になるのは日本の宿命であろうか。今年、竜巻災害に遭われた方々はまた多数に上った。被害を受けた方には、お悔やみの言いようもない。
 この特集号は、風の研究者、建造物の設計・建設工事に関わる者にとって、有益な最近の知見をまとめている。今回の連続エッセイは、この特集号を参考にして、バイオクリマに関する諸問題を再考した。

竜巻被害とバイオクリマ

  自然災害による被害は人的被害と建造物被害に分けて統計がとられることが多い。バイオクリマが関係するのは、主として人的被害であるが、人間生活は建造物とともにあるのだから、どちらも大切で、切り離せない。。先ず、竜巻に襲われる場所を(表1)にまとめた。竜巻に襲われる時、人間はどこで、どのような状態に居るかによって、被害は大きく異なる。

(表1)人間を取り巻く建造物空間に及ぼす竜巻被害とその対策を、バイオクリマから考慮する場合の対象因子

因子 細分された因子の例

[都市化した地域]  
住宅 鉄筋コンクリート、木造、平屋、2階建てなど
集合住宅 団地
高層ビル 室内、エレベーター、エスカレーター、廊下
アパート・マンション 敷地内の配置、階数、大きさ
ホテル 簡易ホテル、大きなホテルビル
店舗 個人、小規模、ファストフード
商業施設 大規模、ショッピングモール、地下商店街
駐車場 地上、屋上、地下
路上 歩行中、自動車運転中・後部座席、自転車
学校 校舎内、運動場、体育館、図書室、保健室
大学 教室、実験室、研究室、図書館
会社・役所・事務所 仕事中の人、外来者
公共建築物 ホール、劇場、博物館、美術館
病院 外来棟、入院棟、検査・事務棟
交通機関 橋梁上、土手上、平坦地、走行速度、走行方向と卓越風向、車両編成、車両重量・重心高
スポーツ 屋内、野外(陸上・水上)、水泳(プール、海岸)
   
[山間地・農村]  
土地利用 水田、畑、草地、砂地
地表状態 コンクリート、砂礫、裸地
微地形 台地上、谷の中、盆地の中、斜面上、小丘の上
周辺の森林 広葉樹林、針葉樹林、防風林、屋敷林、防風垣
   
[過去の記録]  
過去の被害 日本内における多頻度地域か
過去の竜巻 どの方向から来て、どの方向に去ったか
過去の発生 何年何月にあったか
過去の経験 記述された資料の収集、言い伝えの収集


 バイオクリマを考えるために(表1)のような被害因子の情報が、より正確に、より多く、集まっていることが望ましい。また、人の行動や自動車の交通は昼夜によって全く異なるし、土曜・日曜・休日と仕事日では異なる。都会では通勤・通学時間帯は人の動きが異なる。これらの曜日による差、日変化、朝夕の変化、時間帯による差は重要で、因子が入れ替わることが多い。

バイオクリマ被害と竜巻風速

  次にバイオクリマに及ぼす竜巻被害の程度と風速との関係を考えたい。現在のところ、竜巻の中で、風速をあらかじめ設置した風速計で詳しく捉えることは不可能である。そこで、建造物などの被害の程度から推定風速を求め、その風速下で人々のバイオクリマがどうであるか議論・考察・対策などをするより他ない。思考過程(研究方法)としては、堂々巡りであるが、致し方ない。
 竜巻の規模(スケール)の推定は、建造物の被害の程度から(表2)の基準で推定するのが普通である。最近、被害の程度を詳しく調査し、従来のスケールをさらに詳細にした拡張フジタスケール(Enhanced Fujita Scale, EF)がアメリカ合衆国では使用されている。(表3)にはこれを紹介した。木造の平屋・2階屋が多い日本の状況にそぐわない点があるようにも思うが、より国際的なものは、今後の検討課題であろう。

(表2)竜巻による建造物被害の程度と推定風速(喜々津ほか、2012による)

被害の程度* 推定風速
(3秒ガスト風速**)

1)目視でわかる程度の被害 29 m/s
2)屋根ふき材(20%未満)の飛散。樋や日よけの損傷。ビニール・金属覆いの飛散 35
3)ドアのガラスや窓の損傷 43
4)屋根板の浮き上がり。広範囲の屋根ふき材(20%以上)の飛散。屋根の煙突の倒壊。車庫のドアの内側への倒れ込み。玄関・カーポートの損傷 43
5)建築物全体の基礎からの移動 54
6)小屋組みを構成する広い部材の飛散(大部分の壁は未倒壊) 54
7)外壁の倒壊 59
8)大部分の壁(外に面していない小部屋の間仕切りを除く)の倒壊 68
9)すべての壁の倒壊 76
10)適切に設計施工された住宅の全壊、床版の飛散 89以上

*被害の程度(DOD, Degree of damage)。アメリカ合衆国で使われているもの。
**日本で使われている10分間平均風速、瞬間最大風速と異なることを注意。

(表3)拡張フジタスケール

拡張フジタスケール 推定風速(3秒ガスト風速)

EF 0 29−38 m/s
EF 1 39−49
EF 2 50−60
EF 3 61−74
EF 4 74−89
EF 5 89以上

(この表の推定風速は日本で使う10分間平均風速または瞬間最大風速でないことに注意)

 3秒ガスト風速の特徴がまだよくわからないが、10分間平均風速の1.5−2.0倍が瞬間最大風速とされている。まれに10分間平均風速の2.5−2.7倍の瞬間最大風速が観測されることがある。強い竜巻の場合はどうなのか、このような問題も今後の研究を待ちたい。
 日本の気象庁が使っている藤田スケールは(表4)に示す。被害の状況が日本の現状に適していること、平均風速の算定基準がはっきりしていることで、われわれには使いやすい。

(表4)日本の気象庁が使う藤田スケール

藤田スケール 推定風速 同左の風速 被害内容*

F 0 17−32 m/s 約15秒 テレビのアンテナなどの弱い構造物が倒れる。小枝が折れ、根の浅い木が傾く。非住家が壊れる危険がある。
F 1 33−49 10 屋根瓦が飛び、ガラス窓が割れる。ビニールハウスの被害甚大。根の弱い木は倒れ、強い木は幹が折れたりする。走行中の自動車が横風を受けハンドルをとられ道からそれる。
F 2 50−69 7 住家の屋根がはぎとられ、弱い非住家倒壊する。大木が倒れたりねじ切られる。自動車が道から吹き飛ばされ、列車が脱線することがある。
F 3 70−92 5 壁が押し倒され住家が倒壊する。非住家はバラバラになって飛散する。鉄骨造りでも潰れる。列車は転覆し、自動車は持ち上げられ飛ばされる。森林の大木でも大半は折れるか倒れるかし、引き抜かれることもある。
F 4 93−116 4 住家がバラバラになって付近に飛散し、弱い住家は跡形もなく吹き飛ばされる。鉄骨造りでもぺシャンコになる。列車が吹き飛ばされ、自動車は何十メートルも空中を飛ばされる。1トン以上の物体が飛ばされるので危険。
F 5 117−142 3 住家は跡形もなく飛ばされる。立木皮がはぎとられる。自動車・列車は浮上し、飛行して、とんでもないところに飛ばされる。数トンの物体が飛んでくるので、非常に危険。

*気象庁の発表語句を若干訂正した。

人間生活への影響

  人間が生活している空間は上記のような大きな固体ばかりではない。地表面近くでは地面からの土壌粒子、家屋が破損・倒壊する時の埃、化学物質による汚染、火災などの危険などが直接、人間の健康・疾病に影響する。
 また、竜巻の重要な特徴の一つは発生が局地的で、瞬発的・突発的なことである。予報・警報は広域が対象なので、例え予報・警報を聞いていても、人間の心理として、「自分のところは大丈夫」と思っている。そして、前兆現象なしに急に襲われることは、気圧急変・天気急変の生理学的な影響に加えて、生活環境の急変が生活状態に及ぼす心理学的な影響は大きく、強い。さらにまた、被害地域が局地的である事は、救援活動には広大な場合より容易性となろうが、自然現象による被災とは言え、被災者の立場からは複雑な心情になろう。特にうつ状態の場合は無視できないであろう。
 生産活動まで考慮に入れた人間生活に及ぼす竜巻の影響は、これまでほとんど研究されてない。ただ、農業施設・農産物・林業資源の損害算定の統計があるだけである。やはり、今後の研究に期待したい。


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