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連載エッセイ [8]
暮らしの中のバイオクリマ
吉野正敏

 
東日本大震災による人的被害とバイオクリマ研究
 
人的被害の統計

 2011年3月11日の地震・津波発生から1年を経過し、種々の被害統計が入手できるようになってきた。今回は、人的被害として、死者・行方不明者数の統計から、バイオクリマと津波の状態との関係を考えてみたい。それらの地形・海抜高度・土地利用条件の考察を、現地で観察した実例からも補って考えてみたい。

被害者数

  先ず県単位で被災者を死者数と行方不明者数から見ると(表1)のとおりである。

(表1)県別の死者数と行方不明者数。2012年2月末日現在*

県名 死者数(人) 行方不明者数(人)

岩手県 4,671 1,354
宮城県 9,510 1,694
福島県 1,605 215

3県合計 15,786 3,263

その他**合計 66 5

*朝日新聞2012年3月11日版、警察庁まとめによる。
**北海道・青森県・山形県・茨城県・栃木県・群馬県・千葉県・東京都・神奈川県

 この(表1)には津波による場合以外を含んでいる。例えば、山形県・栃木県・群馬県などでは、津波の影響はなかった。したがって、2012年1月の時点で公開されている統計値を詳しく検討し、補正を谷謙二(埼玉大学)は試みたが、作業は簡単ではなかった。3県合計値で死者数は15,173人が死亡者名簿に記載されており、その内の14,809人が集計の単位に配分され、残り564人の内の434人は3県沿岸部以外の市区町村の住所、130人が詳しい住所表記が無く、配分不可能であった。同じようなことが行方不明の統計でもあった。
 統計作成の困難の原因には、津波によって、町村単位では役場の台帳そのものが流失したり、さらには担当部署全員が被害者であったりして、記録の保存機能がこのような町村では全くなくなった。あるいは、宮城県警のように『ご遺族がホームページの犠牲者の公表を希望されない場合、ご遺族の心情を考慮して公表していない』という場合がある。これなども、バイオクリマの心理学的分野の研究方法において、今後の一つの課題である。つまり、データ収集の課程で受けた巨大津波の影響をどうするかである。

被害者率

  (表2)に死者数と行方不明者数を合計した犠牲者数を分子とし、浸水域の人口(2005年国勢調査による500mメッシュ人口)を分母とした被害者率を示す。(表1)に示した実数も重要な情報量だが、被害は言うまでもなく、たくさんの人が住んでいるほど大きい。しかし、津波による被害の特徴は人口密度や、土地利用・地形などにも関係し、被害者率の方が各地の被害の大きさの比較検討に適切な場合がある。また、バイオクリマの視点から、集団感染の予防などには、被害者率の情報を欠くことはできない。

(表2)主要な市・町における被害者率*

県名 市・町名 被害者率(%)

岩手県 久慈市 0.06
  宮古市 2.91
  山田町 6.73
  大槌町 10.97
  釜石市 8.02
  大船渡市 2.24
  陸前高田市 11.13

宮城県 気仙沼市 3.40
  名取市 7.96
  山元町 7.68
  利府町 8.49
  女川町 11.63
  南三陸町 6.09

福島県 相馬市 4.39
  南相馬市 4.83
  富岡町 5.21
  浪江町 5.48

*データは、牛山素行・横幕早季2012:陸前高田市における人的被害の特徴(速報)。
静岡大学防災総合センター、7p。による。

 この(表2)からわかることを列挙すると、次のとおりである。(1)大槌町・陸前高田市・女川町は10%を超え、11〜12%である。これは非常な高率で、東日本大震災の最大の特徴である。これはまた一般的に見て、市町村の地域スケールにおける自然災害の中でも特筆すべき高率である。(2)岩手県では山田町が6.7%、釜石市が8.0%、その他は2〜3%以下である。宮城県では6〜8%の市町が四つあり、大きな差である。地形・土地利用・都市化の差ではなかろうか。(3)上記(2)の状況は、県や国がバイオクリマ関連の健康・疾病対策、施設建設などの計画立案には考慮する必要があろう。

年齢別・性別の被害者数

 被害者を年齢別や男女別に見るとどうであったか。働き盛りの人と家の中の高齢者とでは差があるように想像されるが、これまで、津波の被害者の年齢別・性別の統計について、詳しい情報は無かった。(表3)は死者数について県別にまとめた結果である。

(表3)岩手・宮城・福島3県の年齢別・男女別の死者数*

  岩手県 宮城県 福島県
年齢(歳) 男性 女性 男性 女性 男性 女性

0−9 30 54 170 165 29 18
10−19 41 41 137 147 24 29
20−29 75 59 177 155 25 24
30−39 134 108 275 253 44 33
40−49 165 180 321 348 51 50
50−59 297 308 509 573 103 92
60−69 426 466 900 854 157 129
70−79 550 606 1070 1116 172 233
80以上 400 616 733 1248 158 222

*朝日新聞2012年3月11日版による。2012年2月末現在、各県警まとめによる。
注:表の中で、太字は男が女より明瞭に多い年齢層、イタリック文字はそれぞれ県別・男女別にみた最大値。

 この表から働き盛りの年齢層30-39才代の年齢層では男が女より明瞭に多い。消防団員の犠牲者が多かったことが指摘されているが、水産業関連、その他業種でも、この年齢層の男の犠牲者数が女より多く、男女差が明瞭である。絶対値では年齢層が上がるにしたがい多くなる。しかし、男では70才代が極大で、女は80才代が極大である。高齢犠牲者の明瞭な性差を生じる理由は何か、なぜ80才代になると女の犠牲者がこのように男より多くなるのか、今後の詳しい解析が必要であろう。体力に加えて、判断力・行動力など生理・心理的問題に関連するバイオクリマの課題である。

現地での例

 すでに紙面の余裕が無いので、写真で済ませたい。キャプションで津波の状況を理解していただければ幸いである。

(写真1)田老(たろう)海岸における津波跡にみる被害の高度分布。
津波後、約1年の2012年4月7日の状況。(吉野撮影)


画面最下:コンクリート上は片付けられ、更地になっている。右端には船があり、沿岸漁業の回復の兆し。
斜面下部の高度3m位まで:津波により完全に削られ、石段・植生はない。この上限の高さは、従来の経験から津波遡上の上限と推定されていたことが、画面右下の石屏(石堤)の上限の高さや、お社に上がる石段右側の灯篭の位置が、ほぼこの高度であることからわかる。今回の津波の異常さがわかる。
斜面中部(3〜10m位): 石段が見える範囲の高度。今回の津波で右(湾の方向)に面した部分の斜面崩壊が明瞭。植生は枯れているが、うっすらとは識別できる。画面の左に墓地があるが、墓石が残る部分と植生のある部分との境の線は、ほぼ、上記の斜面崩壊部分(画面の右)の上限の線とつながる。
斜面上部(10〜13m位):植生の変色により、ここまで津波遡上の影響が強かったことが明らかである。
丘の上:お社のある平坦面、国土地理院の調査では14.8m。スギの林のある高度にほぼ一致する。津波の影響は写真撮影地点からはわからない。

(写真2)津波1年後、分別された鉄屑の山。
(岩手県山田町にて、2012年4月7日、吉野撮影)

 (写真1)は津波による被害の高度分布が明瞭に1年後でもわかるところの例である。今回の津波が異常に巨大であった証拠をみることができる。(写真2)は1年後、がれきは分別ごみとして山積みされているが、やはり道路の標識など、原型を留めているものを見ると心が痛む。


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