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連載エッセイ [12]
異常気象を追う
吉野正敏

 
台風
 
台風の襲来は異常気象か

 日本の気候を特徴づける3本柱は、冬の季節風、6・7月の梅雨、そして台風である。その他にも、春一番とか、木枯らしとかあるが、これらは日本全体からみれば、地域的にも日数からみても、影響を及ぼす範囲が限られている。
 毎年、台風は日本のはるか南方の熱帯太平洋上で何個か発生し、その一部が日本にむかってやってくる。その中の幾つかは日本に上陸する。。。。。とすれば、台風がくること自体は異常気象とはいえないだろう。あとで詳しく述べるが、日本に上陸する台風が0の年が最近よく現れる。むしろ、この方が異常である。もちろん、2004年のように、過去には経験しなかったような、年間で10個も襲来するのも異常であることは言うまでもない。
 台風の襲来について、古くから日本では公式文書にも、個人の日記にも、小説の中にも記録されている。源氏物語の「野分け」以来、小説や詩歌の題材になり、日本文化に深く入り込んでいるのが台風である。
 カスリン台風・伊勢湾台風。。。。など数えきれないほどの大災害が人口密度の高い都市部や沿岸各地を直撃した台風によって起こった。また、台風はまだはるか南方洋上にあっても、すでに本州上にある前線が、台風にともなう南からの湿った空気のながれで活発化し、しかも、長時間、場合によっては数日もこの前線が停滞して本州上にあると、そこには多量の雨が降る。川は増水し、水害の危険が増える。このようなときには、大きな災害となる。これは、まさに異常気象そのものである。要するに個々の台風によって、状況が非常に異なる。それに付随して起きる気象状態・災害の内容・程度が大きく異なるのである。異常に大きな災害をもたらすこともあれば、大きな被害がなく、事なきをえる場合もある。南西諸島では、干ばつで困っているとき、一個の台風がやってきて雨をもたらし、畑の作物が生き返ることもある。台風の恩恵ともいえる状況もまれには起きるのである。これが3本柱の一つ、台風の特質である。

台風発生数の最近の変化

 「地球温暖化により熱帯低気圧の発生数は減少する。しかし、非常に強い熱帯低気圧の発生数は増加する。」ということは、数値モデルによる研究によってほぼ認められているが、後で述べるように、世界気象機関(WMO)の専門家の会議では、こう言い切るにはまだ問題があるとしている。熱帯低気圧の中には、太平洋の台風ばかりでなく、大西洋のハリケーン、インド洋のサイクロンなどあり、それぞれ最近の傾向には差があるかも知れない。
 (表1)は台風の発生数を10年ごとに区切って集計したものである。春・冬は個数も少なく、いまここでの議論に関係ないので省き、6月から11月までの各月についてまとめた。2001年以降は2007年までの7年間の集計である。

(表1)台風の10年ごとの発生数、および平年値*。単位は個数/年。

 1961-1970年   1971-1980年   1981-1990年   1991-2000年   2001-2007年   平年値 

6 1.7 1.6 2.4 1.1 1.9 1.7
7 4.5 4.6 3.6 4.0 3.6 4.1
8 6.4 4.3 5.9 6.2 5.9 5.5
9 5.8 5.0 4.7 5.5 4.0 5.1
10 4.1 3.9 4.1 3.8 3.3 3.9
11 2.9 2.4 2.8 2.2 2.3 2.5

9+10
合計
9.9 8.9 8.8 9.3 7.3 9.0
(注:*1971-2000の平均)

 台風シーズンと一口に言っても、8月だけは傾向が別である。7月、9月、10月は21世紀には、平年値と比較して値は小さい。9月+10月の値は平年値が9.0に対し、21世紀は7.3で減少していることが読み取れる。
 8月だけが傾向は違い、増加している。これについては、もう少し詳しい検討が必要だが、8月は台風発生の極大期で強い台風が多い。したがって、数値モデルによる研究で強い台風の発生数は増えるという計算結果と同じ傾向を示しているという解釈もできよう。なお、以上の議論では1961-1970年の統計をほとんど考慮していない。20世紀の終わりの20-30年、21世紀の7年を比較している。表題の“最近”の定義にも関係するが、今後の詳しい研究にまつところが多い。また、(表1)は台風の強弱を分類せずに個数を扱っている点も注意しておきたい。

日本における台風上陸数の最近の変化

 発生数と日本への上陸数はもちろん異なる。南方海上で発生した台風の一部が日本に上陸するにすぎない。しかし、日本人にとっては、上陸するかしないかは、大変なちがいであることは誰でも、経験上知っている。(表2)は(表1)と同じ形式でまとめた統計表である。

(表2)10年毎、21世紀の7年、および平年値*にみる日本における台風上陸数。 単位は個数/年。

 1961-1970年   1971-1980年   1981-1990年   1991-2000年   2001-2007年   平年値 

6 0.1 0.1 0.2 0.2 0.3 0.2
7 0.4 0.5 0.7 0.6 0.7 0.5
8 1.7 0.8 1.2 0.7 1.1 0.9
9 0.8 0.9 0.6 1.2 0.9 0.9
10 0.2 0.1 0.2 0.1 0.4 0.1
11 0.0 0.0 0.1 0.0 0.0 0.0

6-10
合計
1.0 1.0 0.8 1.3 1.3 1.0

 (表2)をみると1961−1970年をのぞいて6月・7月・10月に増加傾向がうかがえる。8・9月はあまりはっきりしない。また、増加傾向といってもきわめて小さい値で統計学的に有意であるかどうかもわからない。 6-10月の合計で21世紀になってからとその前30年の平年値を比較すれば1.3と1.0で0.3の増加である。今後、違った方法で、例えば、台風の強弱別に統計をすれば、有意な増加傾向を見出せるかもしれない。

発生数や上陸数の増加や減少は温暖化の影響か?

 2004年には日本に10個の台風が上陸した。それ以前は最多でも6個で1990年と1993年にその記録があるだけである。日本では、地球温暖化の影響かとさわがれた。この頃はなにか異変があると地球温暖化の影響とむすびつける風潮があるのも困ったことである。確かに、その後、2005年にはクック諸島で5週間に5個の熱帯低気圧に襲われた。2004年と2005年には大西洋のハリケーンの活動は、このエッセイでもとりあげたカトリーナの場合を含めて、非常に激しかった。2006年には中国で台風“サオマイ”が、またオーストラリアではサイクロン“ラリー”が猛威を振るった。これだけ例が集まると温暖化の影響と言いたくなる。そこで、先にも触れたが、2006年11月、世界気象機関(WMO)が「このような熱帯低気圧の活動は地球温暖化と関連あるとみてよいかどうか」を検討する会議を開いた。その結果の要点をここに紹介したい。現在の段階で、もっとも信頼にたる、穏健な、科学的な見解と思う。
  1. 最近、海水面温度の上昇に伴って熱帯低気圧のエネルギー・数・風速が強くまたは大きくなってきているという報告がある。しかし、一方では、これは観測技術の進歩や測器の開発によるという報告もある。
  2. 全体としての傾向はともかく、個々の熱帯低気圧の発生・動き・発達に温暖化の直接の影響を求めることは不可能である。
  3. 最近の熱帯低気圧の活動が人間社会に及ぼす影響が強大になってきているのは、海岸地帯に人口があつまりインフラが集中してきたからである。
  4. 最近の20-30年間の風速のモニタリングによると、風速の長期変化傾向は見出せない。
  5. 熱帯低気圧の数や活動に長期(十年から数十年)の変動・変化の傾向はあるが、その原因は自然なのか、人間活動によるのか、その両方によるのか、わからない。
  6. 最近、数値モデルシミュレーションにより温暖化したとき熱帯低気圧の数が減少するとか、変化しないとかいう結果がでているが、まだ、信頼にたるものではない。また、局地性が大きく、地域差がある。
  7. もし温暖化した場合海面上昇が起こるならば、海岸の低地の浸水に対する脆弱性は間違いなく増加する。
 以上が要点である。したがって、このエッセイの初めに述べた発生数や上陸数は、強弱に関係なしに個数を数えた結果であり、一つ一つの台風、あるいはある年の異常な個数発生の原因を調べたものでないことなどを注意したい。また台風についての話であって、熱帯低気圧全部の話ではない。そして、最近の20-30年あるいは1971-2000年の平年値と、21世紀の数年との比較であることを留意したい。このような観測結果の分析を積み上げて、事実を少しでも解明してゆくことが重要である。


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